ピタゴラス音律について

 芦田容子の音楽は一般的に使われる十二平均律ではなく、ピタゴラス音律と同様の、五度圏を用いた独自の調律で演奏されています。と言いましても、この二つの違いについて理解されている方は少ないと思われますので、簡単に説明したいと思います。

 このピタゴラスは、あの有名なピタゴラスの定理を作った、ギリシャ時代の数学者のピタゴラスです。
彼の考え方は単純に、基本になる音と、その1.5倍の周波数の音を鳴らすと気持のいい音が生まれる。つまり、ドの音と、五度上のソの音の周波数を1対1.5倍になるようにし、そのソの音に対し五度上の音である、1オクターブ上のレの音を1.5倍の周波数になるようにし、さらにこれを繰り返すことにより、美しい音の音階が作れると考えました。
 しかしながら、この方法は音階としてつじつまが合わなくなり、また音が干渉することにより、音楽的に不都合な音が生まれたり、転調などの音楽的自由さが失われるなど、さまざまな欠点があります。

 この欠点をカバーするために、民族音楽などではいろいろなくふうガされていますが、この問題を最終的に解決したのは十二平均律だと思います。これは1オクターブを12に同じ比率で分割し、音楽的自由さと調和した音を得る画期的な方法だと思います。ただしその結果として、ピタゴラスの言う気持ちのいい音は失われることとなります。
この二つの音律の周波数がどの程度違うかを表にします。

    十二平均律    ピタゴラス音律  
  C ド   261.6255Hz   260.7407Hz 
  D  レ  293.6647Hz  293.3333Hz 
  E  ミ   329.6275Hz   329.9999Hz
  F  ファ    349.228 Hz  352.396 Hz 
  G  ソ  391.9954Hz  391.1111Hz 
  A ラ  440     Hz  440     Hz 
  B シ  493.8833Hz  494.9999Hz 

 これを見ると二つの音律の間の違いはそれほど大きくなく,微妙な差異であることがわかります。
そこで、芦田容子の音楽は、ギターの調弦を基本となる音を中心に、ピタゴラスの言う気持ちのいい響きを持つ音となるよう調弦し、それを基にその他の音を音楽的に調和するように、適当に微調整することによって生まれます。
その結果彼女の音楽は、深く沈みこむ心地よい音と、複数の音を干渉させることによって生まれる、15000Hzを超える周波数をもつ、高音の音楽的ノイズ音を含んだ独特の音楽となります。


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